大宮司郎先生が語る霊学実践のための必読本『霊学講座』

*これは『霊学講座』の初版刊行時の記事です。この度、増補版で増刷されました。

増補 霊学講座

平成2年7月の『八幡書店ニュース』より転載。

霊学との決定的な出会いの書

――『霊学講座』が八幡書店からこのほど復刊されて以来、大きな反響を呼んでいます。大宮司朗先生が本書と出会われたのはいつ頃ですか?

大宮 私が一番最初に『霊学講座』に出会ったのは小学校の頃です。当時からすでに私は霊術的なものに強い関心があって、たまたま伯父の家へ行った時に『霊学講座』を発見したのです。

それを読んでみると、ひじように面白く、かつ実践的なので、これはぜひとも欲しいということで、伯父にお願いしたのですが、人から借りたものだということで、もらえませんでした。でも、本なのだから探したらあるだろうと思って、その後、八方手を尽くしたのですが、結局『霊学講座』を手に入れたのは大学に入学した頃でした。『霊学講座』はなかなか入手できない稀観書(きこうしょ)だったわけです。

――『霊学講座』は大宮先生が霊学について本格的に勉強するきっかけの本だったわけですね。

大宮 そういうことになります。私の霊学との大きな出会いの一冊が『霊学講座』であることは間違いありません。しかも著者の松本道別(ちわき)は早稲田大学の前身である東京専門学校で学んでおり、私も早稲田大学を出ておりますので、いってみれば私の大先輩にあたり、深い神縁を感じざるをえません。とにかく『霊学講座』は内容が際立っています。霊術や霊学を学ぶ上でこれほど有意義な本はほとんど見受けられません。

実践可能な霊術・霊学の極意書

――『霊学講座』はどんな初心者でもきちんとプロセスに従って読んでいけば、ちゃんと実践ができるんですね。

大宮 そうです。霊術や霊学とはなんであるかが一通りわかるし、本書を自分のものにすれば、霊学を実践活用する目が開けてきます。これまで霊学や霊学に関する本をある程度読んでいるにもかかわらず、なかなかその極意がつかめないという人は、迷わず『霊学講座』を読めばよいのです。松本道別自身が自分で体験しながら著した本であり、やはり本物ですから、正確で、一言一言重みがあるということです。

行学兼備の霊学の大家

――霊術家や霊学者は往々にして一人一党みたいなところがありますが、松本道別は霊学や霊術の教授法にも秀で、その門からは優れた弟子が輩出していますね。

大宮 やはり能力があったということなんでしょう。松本道別は学識が豊かだし、霊的な資質も際立っていました。その辺の霊術家いわゆる神憑(かみがか)りをやる人というのは学識が乏(とぼ)しい場合が多いです。とにかく霊はかかるものの、なぜ、かかってくるのかはわからない。逆に学者先生というのはいろいろ読んでいるので理屈だけはこね回すけれども、実際に神憑りをやってみせろといったってなにもできないわけです。学もあり、行もできるといった両方の特質を兼ね備えた兼学の大家が松本道別だと思います。

――松本道別は霊学はもちろん、漢学もでき英学もでき古典も造詣(ぞうけい)が深いですね。

大宮 普通の霊術家でそこまで深い学識を誇れる人はいません。科学方面も明るいですしね。

――松本道別の門下には、野口整体でおなじみの野口晴哉(はるちか)がいますね。

大宮 野口晴哉のやり方の根本にはどうみても『霊学講座』の影響を受けているとしか思えない部分があって、一般に整体をやる人や治療師は『霊学講座』を探し求めて、一種のタネ本として活用している人が多いようです。本書にはいろいろな治療法が紹介されており、素人がそうした治療法をやっていいかという問題もありますが、素人ですら『霊学講座』を習得すればプロの域に達することができるくらいの高度な治療法が習得できるのです。

――松本道別の弟子には、神道天行居(てんこうきよ)幹部の井口寅二(とらじ)や武田玄雷(げんらい)がいますが。

大宮 天行居の第二代宗主になった井口寅二は霊学における友としてでありましょうが、松本道別のもとにきて神憑りによる鑑定法などを請うているし、天行居の師範であった武田玄雷も鎮魂法や帰神法を学んでいます。

▲霊学道場主範の松本道別

鎮魂法や帰神法の奥義も公開

――神道霊学研鑓の要諦のひとつは鎮魂法や帰神法ともいわれますが。

大宮 たとえば、大本では草創期において鎮魂法や帰神法が盛んに行なわれていましたが、弾圧事件後の大正11 年頃には表舞台から消えちゃうんです。というのは後の心霊学研究の大御所となる浅野和三郎らが帰神法に関してあまりにも派手な宣伝を展開したこともあって大本弾圧の一因となり、その後、浅野が去ったあとの大本は鎮魂法は今でも継続しているものの、帰神法はやっていません。そういう点からいうと帰神法まで一番実践的にやっていたのは松本道別が代表格でしょう。

――『霊学講座』には帰神法の正しい方法が書かれていますので、その通りにやれば安心だということでしょう。

大宮 そういうことですね。松本道別は霊力の充実が自然に培われる方法として催眠術を重視していますが、その催眠術のやり方を詳述する一方、鎮魂法や帰神法に関しても理論的実践的に説明しています。

――松本道別は催眠術の大家でもあったようですね。

大宮 催眠術に関していえば、当時の催眠術はものすごく遅れており、ある物体を見させておいて、目が疲れるのを待って、催眠術をかけるという形のものが結構多かったにもかかわらず、松本道別は一番進んだやり方である観念法を用い、自在に速やかに誘導したわけです。また現在の催眠法は暗示だけでやる方法が多いのですが、松本道別は気を用いて相手を催眠状態に導く方法も紹介しています。単なる暗示だけではなく、気を相手の頭脳部に送って催眠状態にかけるといった特別な方法も記しています。

▲『霊学講座』の貴重な原本

潜在能力を自在に発揮する観念法

――松本道別が説く観念法の効果はすごいものがありますね。

大宮 観念法は自己催眠法の一種で、自己の肉体の随意筋(ずいいきん)のみならず不随意筋をも自由に扱う方法です。人間というのは通常自分の体を自在に動かせないわけです。ところがこれを自在に動かせるというのは、あらゆる武道や運動を行なう場合においてすごいことなんです。

――観念法は自分の力を最大限に発揮する方法なんですが、これは確かにありがたいことです。

大宮 ヨガ行者の中には意識的に自分の心臓の鼓動を止めることができる人もいますが、これも観念法の一種です。不随意筋まで自由自在に活用できるのです。観念法は潜在能力を発揮する秘法ですから、観念法に通じてさえいれば日常の力の何十倍もの力を出せるわけです。たとえば、普通なら出ない力をおこすことを、俗に火事場のバカ力といいますが、そうした力をいつでも即座に出す方法が観念法なんです。

――なるほど。観念法は潜在能力を高める方法であり、それをマスターすれば潜在能力を発揮できるわけですね。それから催眠術と鎮魂法、帰神法との違いを混同している人が多いようですが。

大宮 昔に限らず現在でも、催眠術と鎮魂法と帰神法をまるっきり混同している人が多いのは困った現象です。松本道別はその違いというものを画然とわけでいます。

ある種の宗教団体では、今でもただ単に一種の催眠状態に過ぎない現象を神や霊がかかってきたといって騒いでいます。それは催眠術を知った目からみれば、単なる潜在意識が表に出てきただけということがはっきりと指摘できるのです。またその一方で、実際に神や霊がかかってきているにもかかわらず、単に暗示現象であるというふうに簡単に片づけてしまう傾向もあります。

『霊学講座』はそういった過(あやま)ちを正す意味でも、また真の催眠術や霊術とは何か、真の鎮魂法や帰神法とは何かを再認識する上でもたいへん役に立ちます。

――帰神法に関して霊動が激しくなれば、人によっては不安になるかもしれませんが、自分で霊動を止める方法も『霊学講座』には記されていますね。

大宮 もちろんです。こういうエピソードがあります。大本出身の谷口雅春(たにぐちまさはる)が生長の家という一派を聞き、そこで弟子に神想観という一種の鎮魂法をやらせたわけです。それによって一種の神憑りというか霊憑りをおこす人もいましたが、弟子が霊動を鎮(しず)めることができなくなったのです。ところが、谷口雅春は一喝でそれを鎮めることができました。なぜ谷口にはできて弟子にはできなかったのかというと、霊縛(れいばく)法をマスターしていたか否かにかかっていたわけです。

霊的天才は守護神や守護霊の働きによって生来的に霊縛法ができる場合もありますが、ほとんどの人はそれができないのが実情です。『霊学講座』には霊といかに対処するかの方法が書かれていますから安心なのです。

とにかく、一般の人は霊と対処した場合や神霊を審神(さにわ)する場合の基本原則がわかっていないから厄介(やっかい)なことになりがちです。『霊学講座』には、そうした基本原則がすべて書かれていますので、本書を踏まえた上で実践すべきだと思います。

▲霊術・危険術の一例

神道霊学研究で必須の魂魄論

――『霊学講座』には、いわゆる三魂論、すなわち魂魄(こんぱく)論についても述べられていますね。

大宮 霊学の重要な部分はある意味では魂魄論なわけです。松本道別は『霊学講座』の中でも魂魄論について書いておりますが、本書には付録として「霊学春秋」に三回にわたって連載された『霊魂の研究』も特別付録として収録されています。

魂魄や霊魂を論じる場合においてやはり最低限こうした知識がなければ論じようがないのであって、霊学云々かんぬんという場合においては霊魂とは何かを知らなければならないのはいうまでもありません。少なくとも松本道別の本を読んでいなければ論じる資格はないといってもよいでしょう。

霊魂問題に関しては、キリスト教や仏教からの霊魂論はいろいろ論議されてきましたが、神道における霊魂論に関しては、川面凡児(かわつらぼんじ)や出口王仁三郎や友清歓真(ともきよかんしん)などは別として、ほとんど論議の対象にすらなっていないわけです。

古神道を実践という意味においては、やはり松本道別の魂魄論は押さえておく必要が絶対にあると思います。

気の本質についても論述

――最近でこそ、「気」が注目されていますが、松本道別は『霊学講座』で人体放射能という名称を付して気について深い洞察を行なっています。

大宮 今日になってようやく気の問題が学問的な研究対象になりつつありますが、松本道別は当時から気がどのような働きをもっているか、自分自身でいろいろな研究を重ねているのです。物理的科学的な作用も含めて気がどのような働きをもつのかを全部試しているわけです。そういう意味でも先駆的であったわけです。単に気で病気を治すという問題だけならば、当時の霊術家は実際に行なっているのですが、病気治しだけではなく、気の実態にまで分け入って、気とは何かというところを突き詰めようとした功績は大きいものがあります。

貴重な霊学座談会も収録

――『霊学講座』の付録には、『霊魂の研究』のほかに、雑誌『話』(昭和11年10月号)に掲載された『魔界霊界を語る異常感覚者「話」の会』が収録されていますが、これは貴重な資料ですね。

大宮 これは面白い座談会で、松本道別をはじめ、民俗学者の柳田国男、心霊学研究の浅野和三郎、神祇伯家伝の鬼倉足日(おにくらたるひ)(鬼倉重次郎)、国安普明(くにやすふみょう)仙人を世の中に紹介した松井桂蔭、心霊研究の茂木(もぎ)平太郎が一堂に会して対談を行なっているわけですが、当時の神霊界というか神道霊学界というかそうした霊的世界の一断片を垣間見る感じで、実に貴重であり、意義があると思います。

神示によって記された貴重な内容

――松本道別の特徴は、確固たる神観がパックボーンとして貫かれているということですね。

大宮 その通りです。『霊学講座』は神の実在を体験した上で書かれていることに大きな価値があります。古神道をやる人間は自分自身で神の存在を実感できなければならないわけですが、松本道別は神を感じ、神と交流し『霊学講座』を書き上げたのです。ですから『霊学講座』は神示によって書かれた本であり、人間の知識では判らないところは幽の帰神もしくは顕の帰神などによって神に問い質して書いているという点で貴重きわまりないのです。

霊学研究者の必読書

――とにかく『霊学講座』は内容的にすごいものでありながら、初心者でもわかりやすく実践できるというのが魅力ですね。

大宮 『霊学講座』に関してなんといっても重要なことは、本書収録の各項目はいずれも、説明が詳細だということです。呼吸法にしても深息(しんそく)法や数息(すうそく)法から、神仙道の奥義である胎息(たいそく)法や行気(ぎょうき)法まで、そのほか精神集注法、交霊法、鎮魂法、帰神法などにしてもそうですし、印の結び方から、いわゆる審神となる人の印契の結び方、石笛の吹き方、その起源から方法、効果までが具体的に書かれています。どれをとっても大変なものです。文章も簡潔明瞭で勢いがあって読みやすいです。

また何度も繰り返すようですが、交霊法における霊縛(れいばく)法や霊威(れいい)法など、いかに霊に対処するかの方法をはっきり明記している点でもひじように貴重であり、重要であるわけです。

とにかく、霊学を学ぼうとする初心者にとっても霊学研鑓者にとっても、『霊学講座』は必読書だと申して憚(はばか)りません。

▲五十鈴川上流の鰒石にて

増補 霊学講座

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